気持ちの良いサイクリング中、ブレーキをかけるたびに鳴り響く「キーキー」という不快な音。せっかくの楽しい気分も台無しになってしまいますよね。特に、最近主流になっているディスクブレーキ搭載の自転車で、この音鳴りに悩んでいる方は少なくないでしょう。
「このまま乗り続けても大丈夫なのだろうか?」「何か故障しているのでは?」と不安に感じるかもしれません。また、「自転車のディスクブレーキからキーキー音がするのを止めたいけれど、どうすればいいかわからない」「専用の鳴き止め剤というものがあるらしいけど、使い方が難しそう」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃると思います。
この記事では、そんな自転車のディスクブレーキの音鳴りに関するあらゆる悩みを解決します。音が発生する根本的な仕組みから、ご自身で今すぐ試せる簡単な解消法、そして専門家による修理が必要なケースの見極め方まで、順を追って詳しく解説していきます。
この記事を最後まで読めば、不快なブレーキ音の原因がわかり、安全かつ的確に対処できるようになります。正しい知識を身につけて、静かで快適なサイク-リングライフを取り戻しましょう。
自転車のディスクブレーキの不快なキーキー音!これって大丈夫?

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まず、多くの人が悩むディスクブレーキの「キーキー」という音について、その正体と放置するリスクを理解しておきましょう。音が鳴る仕組みを知ることで、なぜ対策が必要なのかが明確になります。
ディスクブレーキからキーキー音がする仕組みとは?
自転車のディスクブレーキは、車輪のハブ部分に取り付けられた金属製の円盤「ディスクローター」を、左右から「ブレーキパッド」で挟み込むことで制動力を得る仕組みです。
ブレーキレバーを握ると、その力がワイヤーまたは油圧を介して「キャリパー」という装置に伝わります。キャリパー内部のピストンがブレーキパッドを押し出し、回転しているディスクローターに強く圧着させるのです。この摩擦力によって、自転車は減速・停止します。
では、なぜ「キーキー」という音が発生するのでしょうか。これは、ブレーキパッドとディスクローターが接触する際に発生する非常に細かな「振動」が原因です。この振動がブレーキキャリパーやフレームなどを伝わって共振し、人間が不快に感じる高周波の音、つまり「ブレーキ鳴き」として耳に届くのです。
新品の状態でも、部品同士の相性やわずかなズレで音が発生することはありますが、多くの場合、何らかの外的要因がこの振動を助長しています。
音が鳴る主な原因は?雨の日や湿気も関係ある?
ブレーキ鳴きを引き起こす振動は、様々な原因によって発生します。主な原因を理解し、ご自身の状況と照らし合わせてみましょう。
原因の種類 | 具体的な内容 |
汚れや異物の付着 | ディスクローターやブレーキパッドの表面に、砂、ホコリ、泥、金属粉などが付着すると、それが摩擦面に挟まり、異常な振動と音を発生させます。 |
油分の付着 | ブレーキにとって最も厄介なのが油分です。チェーンオイルの飛散、道路からの油汚れ、あるいは誤って潤滑剤をかけてしまうと、摩擦係数が極端に変化し、激しい音鳴りと深刻な制動力低下を引き起こします。 |
水分や湿気 | 雨の日の走行後や、湿度の高い環境で音が鳴りやすくなるのは、ローターとパッドの間に水分が介在するためです。水分は摩擦の特性を変化させ、振動を発生しやすくします。また、ローター表面に発生したわずかな錆も音の原因となります。 |
ブレーキパッドの摩耗 | ブレーキパッドが摩耗して摩擦材が薄くなると、パッドを支える金属の台座(バックプレート)がローターに近づき、共振しやすくなります。摩耗が限界に達すると、金属同士が接触して非常に大きな異音が発生します。 |
ディスクローターの歪み・傷 | 走行中の衝撃や転倒などでディスクローターが歪んでしまうと、回転するたびにパッドと部分的に接触し、周期的な音鳴りを引き起こします。また、ローター表面の深い傷も音の原因となります。 |
部品の初期馴染み不足 | 新品の自転車や、パッド・ローターを交換した直後は、それぞれの表面がまだ馴染んでおらず、微細な凹凸によって音が発生することがあります。これは「アタリがついていない」状態と呼ばれます。 |
キャリパーの位置ズレ | ブレーキキャリパーの取り付け位置がずれていると、ディスクローターがパッドに対して斜めに接触したり、片方だけが常に接触したりして、音鳴りの原因になります。 |
このように、音鳴りの原因は一つとは限りません。特に、雨の日やその翌日に音が大きくなる場合は、水分やそれに伴う汚れが付着している可能性が高いと言えるでしょう。
ブレーキのキーキー音を放置するリスク
「少し音がするだけだから」と、ブレーキのキーキー音を放置するのは大変危険です。不快な音は、自転車が発している重要な警告サインかもしれません。放置することで、以下のようなリスクが生じる可能性があります。
- 制動力の大幅な低下油分が付着している場合や、パッドが異常摩耗している場合、ブレーキが本来の性能を発揮できなくなります。特に下り坂や緊急時に「止まれる」と思っていた距離で止まれず、重大な事故につながる恐れがあります。
- 部品の寿命を縮めるローターの歪みやキャリパーのズレを放置すると、ブレーキパッドが偏って摩耗したり、ローターに傷が入ったりと、正常な部品までダメージが及ぶことがあります。これにより、本来なら交換する必要のなかった部品まで交換することになり、修理費用が高額になる可能性があります。
- より深刻な故障への発展最初は小さな音でも、原因がパッドの摩耗限界であった場合、放置すればパッドの台座である金属プレートが直接ローターを削り始めます。こうなるとローターは再起不能となり、高価なローターの交換が必須となります。最悪の場合、ブレーキシステム全体にダメージが及ぶことも考えられます。
たかが音鳴りと軽視せず、早めに対処することが、安全と経済性の両面から非常に重要です。
自分ですぐできる!ディスクブレーキの音鳴り解消ステップ

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ブレーキ鳴りの原因の多くは、汚れや油分の付着です。専門的な知識や工具がなくても、基本的な洗浄で改善することがよくあります。まずはご自身でできる対策から試してみましょう。
まずはブレーキ周りの洗浄から!基本の掃除方法
音鳴り対策の第一歩は、ブレーキ周りを徹底的にきれいにすることです。特に雨天走行後や、しばらく掃除をしていなかった場合は効果が期待できます。
用意するもの:
- バケツに入れた水(またはホース)
- 中性洗剤(食器用洗剤で可)
- 柔らかいブラシ(使い古しの歯ブラシなど)
- きれいなウエス(布)数枚
手順:
- 予洗いまず、ブレーキキャリパーとディスクローター周辺に付着した泥や砂を、水で優しく洗い流します。このとき、高圧洗浄機を使うのは避けてください。ハブのベアリングやブレーキのピストンシールなど、デリケートな部分に水が侵入し、新たなトラブルの原因となる可能性があります。
- 洗剤で洗浄バケツの水に中性洗剤を数滴溶かし、ブラシを使ってブレーキキャリパー全体を優しくこすり洗いします。ディスクローターも同様に、表裏両面を丁寧に洗浄します。
- すすぎ洗剤成分が残らないように、きれいな水で念入りにすすぎます。洗剤が残っていると、それが新たな汚れの原因になることがあります。
- 乾燥最後に、乾いたきれいなウエスで、キャリパーとローターの水気を完全に拭き取ります。自然乾燥でも構いませんが、拭き上げた方が水滴の跡(ウォータースポット)が残らず、錆の防止にもなります。
この基本的な洗浄だけで、軽度な汚れが原因の音鳴りは解消することがあります。
ローターとブレーキパッドの油分・汚れを完全除去
基本的な洗浄でも音が消えない場合、目に見えない油分が付着している可能性を疑います。油分は水洗いだけでは完全には落ちません。専用のケミカルを使って、徹底的に脱脂作業を行いましょう。
用意するもの:
- ブレーキクリーナー(パーツクリーナー)またはイソプロピルアルコール
- きれいなウエス(布)数枚
- 必要に応じて六角レンチなど(パッド着脱用)
注意点:作業中は、ブレーキクリーナーが塗装面やゴム部品にかからないように注意してください。また、火気の近くでは絶対に使用しないでください。
手順:
- ディスクローターの脱脂きれいなウエスにブレーキクリーナーをたっぷりと吹き付け、そのウエスでディスクローターの表裏を挟むようにして、円周に沿って丁寧に拭き上げます。ローターに直接スプレーすると、周囲に飛び散ってしまう可能性があるため、ウエスに付けてから拭くのがおすすめです。拭き終わったら、クリーナーが完全に揮発するまで待ちます。
- ブレーキパッドの取り外しより確実に洗浄するために、ブレーキパッドを取り外します。
- ホイールを自転車から取り外します。
- キャリパーの種類によりますが、パッドを固定している割りピン(βピン)を抜き、パッド固定ボルトを緩めて引き抜きます。
- ブレーキパッドが取り出せます。このとき、左右のパッドの位置を覚えておきましょう。
- ブレーキパッドの脱脂取り外したブレーキパッドの摩擦面(ローターに当たる面)を、ブレーキクリーナーを染み込ませたウエスで慎重に拭きます。パッドの素材は油分を吸収しやすいため、一度染み込んだ油分が完全には抜けないこともあります。その場合は、パッドの交換を検討する必要があります。
- キャリパー内部の清掃パッドを取り外したついでに、キャリパーの内部もウエスや綿棒できれいにしておきましょう。ピストン周りの汚れを落とすことで、ブレーキの動きもスムーズになります。
- 組み付けと確認全ての部品が乾燥したことを確認し、逆の手順でブレーキパッドとホイールを元に戻します。組み付け後、ブレーキレバーを数回握って、パッドが正常な位置に戻るのを確認してから、試走して音が消えたかチェックします。
応急処置として試したいブレーキパッドの面取り
洗浄や脱脂を行っても改善しない場合、ブレーキパッドの表面が硬化していたり、エッジが立っていたりすることが原因かもしれません。そうした場合、応急処置としてパッドの「面取り」が有効なことがあります。
面取りとは、ブレーキパッドの摩擦面の角を、紙やすりなどで削って丸める作業です。これにより、ローターへの攻撃性が緩和され、鳴きの原因となる振動を抑制する効果が期待できます。
用意するもの:
- 紙やすり(サンドペーパー)#150~#240程度のもの
- ブレーキパッド(キャリパーから取り外したもの)
手順:
- パッドの取り外し前述の手順で、ブレーキパッドをキャリパーから取り外します。
- 表面を軽く研磨平らな面に紙やすりを置き、その上でブレーキパッドの摩擦面を軽くこすります。円を描くように動かすと、表面の硬化した層や付着した汚れを均一に削り取ることができます。テカテカ光っていた表面が、マットな質感になればOKです。
- 角を削る(面取り)パッドの進行方向側の角を、紙やすりに対して45度くらいの角度で当て、数回こすって角を落とします。削りすぎに注意し、わずかに面が取れる程度で十分です。
- 清掃と組み付け削りカスをきれいに払い落とし、脱脂作業を行ってからキャリパーに組み付けます。
面取り後は、ブレーキの当たりが変化しているため、安全な場所でゆっくりとブレーキをかけ、本来の制動力が得られるまで「慣らし運転(ベッドイン)」を行うことが重要です。ただし、面取りはあくまで応急処置であり、根本的な解決にならない場合や、パッドの寿命を早める可能性もあることを覚えておきましょう。
それでも音が消えないときの原因別チェックリスト

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洗浄、脱脂、面取りといったセルフケアを試してもブレーキ鳴きが改善しない場合は、部品の摩耗やズレといった、より根本的な問題が隠れている可能性があります。以下のチェックリストを参考に、原因を特定していきましょう。
ブレーキパッドの摩耗・寿命を確認する方法
ブレーキパッドは消耗品です。使えば使うほど摩擦材が削れて薄くなっていきます。残量が少なくなると、音鳴りが起きやすくなるだけでなく、ブレーキ性能が著しく低下し危険です。
確認方法:
- 目視での確認ホイールを外さなくても、キャリパーの隙間からパッドの残量を確認できる場合があります。スマートフォンのライトなどで照らしながら、パッドの摩擦材の厚みを見てみましょう。
- 取り外しての確認より正確に確認するには、パッドをキャリパーから取り外します。パッドは、金属の「バックプレート」の上に「摩擦材」が貼り付けられた構造になっています。この摩擦材の厚みを確認します。
交換の目安:
- 摩擦材の厚さが合計で1.0mm以下になったら、交換時期です。(メーカーやモデルによって基準は異なりますが、多くの場合これが一つの目安です)
- 左右で摩耗の進み具合が極端に違う場合も要注意です。キャリパーの動きに問題がある可能性があります。
パッドの残量が十分にあるように見えても、油分を深く吸い込んでしまっている(コンタミネーションと呼ばれる状態)場合は、表面を削っても回復しないため交換が必要です。
ディスクローターの歪みや傷をチェック
ディスクローターも、パッドと同様にブレーキ性能を左右する重要な部品です。歪みや傷がないか、注意深く観察しましょう。
確認方法:
- 歪みのチェック
- 自転車をメンテナンススタンドに乗せるか、逆さまにして、ホイールを手でゆっくりと空転させます。
- ブレーキキャリパーのパッドの間を、回転するローターが通過する様子をじっと見つめます。
- もしローターが歪んでいると、回転に合わせて左右に振れ、「シュー、シュー」という周期的な接触音と共に、パッドとの隙間が一定でないことが確認できます。
- 傷や摩耗のチェック
- ローターの表面を指でそっと撫でてみてください。レコード盤のような深い溝ができていたり、表面がザラザラになっていたりしないか確認します。
- ローターには、多くの場合、使用限界の厚みが刻印されています(例:MIN. TH. 1.5mm)。ノギスなどの測定器具があれば、厚みを測って限界値に達していないか確認できます。限界を超えたローターは強度が低下しており、非常に危険です。
ローターのわずかな歪みは、専用の「ローター修正工具」で修正することも可能ですが、技術と経験が必要です。無理に力を加えると、かえって状態を悪化させてしまうこともあります。大きな歪みや深い傷、摩耗限界に達している場合は、迷わず交換しましょう。
キャリパーの位置がずれていないか確認する
ブレーキキャリパーがディスクローターに対して正しい位置に取り付けられていないと、パッドが常にローターに接触したり、斜めに当たったりして、音鳴りや偏摩耗の原因となります。
確認方法:
- 位置関係の目視確認キャリパーの上や後ろからのぞき込み、ディスクローターが左右のブレーキパッドの真ん中を、均等な隙間を保って通過しているかを確認します。
- 調整方法(一般的なポストマウントタイプの場合)もし位置がずれている場合は、以下の手順で比較的簡単に調整できます。
- キャリパーをフレーム(またはフォーク)に固定している2本のボルトを、六角レンチで少しだけ緩めます。キャリパーが左右に少し動く程度の緩め具合です。
- ボルトを緩めた状態で、そのブレーキのレバーを強く握り込みます。こうすることで、キャリパー内のピストンが両側から均等にパッドを押し出し、キャリパー自体がローターに対して自然とセンター位置に移動します。
- ブレーキレバーを強く握ったままの状態で、先ほど緩めた2本の固定ボルトを、左右交互に少しずつ均等に締め込んでいきます。一気に片方だけを締めると、その力でキャリパーの位置がずれてしまうので注意が必要です。
- ボルトを規定トルクで締め込んだら、ブレーキレバーを放します。
- ホイールを空転させ、ローターがパッドに接触していないか、音がしないかを確認します。
この調整を行っても接触が解消されない場合は、ピストンの動きが悪い、あるいはローターが歪んでいるといった別の原因が考えられます。
自転車のディスクブレーキ用「鳴き止め剤」を徹底解説

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様々な対策をしても音が消えない場合や、手軽に音鳴りを抑えたい場合に頼りになるのが「鳴き止め剤」です。しかし、その使い方を間違えるとブレーキが効かなくなる危険な事態を招くため、正しい知識を持つことが非常に重要です。
鳴き止め剤(ディスクガード)とは?効果と種類
自転車用のブレーキ鳴き止め剤は、ブレーキから発生する高周波の振動を抑制・吸収することで、不快なキーキー音を低減させるためのケミカル製品です。自動車やオートバイの整備でも同様の製品が使われています。
主な効果の仕組みは以下の通りです。
- ブレーキパッドの裏側(ピストンと接触する面)に塗布することで、パッドとピストンの間の微細な隙間を埋め、共振を防ぐ。
- 特殊な成分がクッションのような役割を果たし、振動エネルギーを吸収する。
鳴き止め剤には、主に以下のような種類があります。
種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
グリスタイプ | 粘度の高いグリス状の製品。チューブから少量出して使用する。 | ・効果の持続性が高い ・ピンポイントで塗布しやすい |
・塗布作業に手間がかかる ・はみ出すと汚れが付着しやすい |
スプレータイプ | エアゾール式の製品。パッドの裏側などに直接スプレーして使用する。 | ・作業が手軽で早い ・乾燥が速い製品が多い |
・狙った場所以外に飛散しやすい ・制動面に付着させないよう細心の注意が必要 |
コーティングタイプ | パッド表面に特殊な被膜を形成するタイプ。 | ・音鳴り抑制効果が高いとされる製品もある | ・製品数が少なく、一般的ではない ・制動力が変化する可能性がある |
一般的に入手しやすく、多くのサイクリストが使用するのはグリスタイプかスプレータイプです。
鳴き止め剤の正しい使い方と塗布する場所
鳴き止め剤の効果を最大限に引き出し、かつ安全に使用するためには、塗布する場所を絶対に間違えてはいけません。
絶対に塗布してはいけない場所:
- ディスクローターの全面(特にブレーキパッドが当たる制動面)
- ブレーキパッドの摩擦面(ローターに当たる面)
これらの場所に塗布すると、摩擦が極端に減少し、ブレーキが全く効かなくなります。命に関わる重大な事故に直結するため、絶対に避けてください。
正しい塗布場所:
- ブレーキパッドの裏側(バックプレート)
- 特に、キャリパーのピストンが当たる部分
手順(グリスタイプの場合):
- まず、これまでのセクションで解説したように、ブレーキ周りを洗浄・脱脂し、完全に乾燥させます。
- ブレーキパッドをキャリパーから取り外します。
- ブレーキパッドの裏側(バックプレート)に、鳴き止め剤のグリスをごく薄く塗り広げます。量は米粒半分程度で十分です。多すぎるとはみ出して、ローターやパッド表面に付着する原因になります。
- 特に、ピストンが直接当たる円形の跡が付いている部分を中心に塗布すると効果的です。
- パッドの側面や摩擦面にグリスがはみ出していないか、よく確認します。もしはみ出していたら、ブレーキクリーナーを付けたウエスで完全に拭き取ってください。
- パッドをキャリパーに元通り組み付けます。
スプレータイプの場合も同様に、パッドの裏側にのみ、ごく短時間スプレーします。この際、ローターやパッドの摩擦面に飛散しないよう、ウエスなどでしっかりとマスキング(保護)することが非常に重要です。
鳴き止め剤使用時の注意点とやってはいけないこと
鳴き止め剤は便利なアイテムですが、その使用には細心の注意が必要です。以下の点を必ず守ってください。
- 使用量を守る:多量に塗布しても効果は上がりません。むしろ、はみ出してトラブルの原因になります。製品に記載されている使用量を必ず守りましょう。
- 事前の清掃・脱脂は必須:汚れた上から塗布しても、十分な効果は得られません。必ずブレーキ周りをきれいにしてから使用してください。
- 絶対に制動面に付着させない:繰り返しになりますが、これが最も重要な注意点です。万が一付着してしまった場合は、ブレーキクリーナーで徹底的に脱脂、洗浄してください。それでも不安な場合は、パッドやローターの交換を検討すべきです。
- 作業後の確認:鳴き止め剤を使用した後は、必ずブレーキの効きを確認してください。最初は制動力が若干低下していることがあるため、安全な平地で、低速からゆっくりとブレーキをかけ、徐々に当たりをつけていく「慣らし運転」を行います。本来の制動力が戻るまでは、公道での走行は控えましょう。
- 定期的なメンテナンスを怠らない:鳴き止め剤は、あくまで対症療法です。効果が永久に続くわけではありません。音鳴りが再発した場合は、再度洗浄したり、パッドの摩耗など根本的な原因がないかを確認したりする習慣をつけましょう。
これらの注意点を守ることで、鳴き止め剤はあなたのサイクリングをより快適にするための強力な味方となります。
専門家による修理が必要なケース

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セルフメンテナンスで解決しない問題や、自分での作業に自信がない場合は、無理をせずにプロのいる自転車専門店に相談することが最善の選択です。安全に関わる部分だからこそ、的確な診断と修理が必要になります。
パッドやローターの交換時期のサイン
以下のようなサインが見られたら、部品の寿命が来ている可能性が高く、専門家による交換作業を依頼することをおすすめします。
- パッドの摩耗限界:摩擦材の厚みが1.0mm以下になっている。
- パッドの異常摩耗:左右で減り方が極端に違う、または斜めに削れている。
- 落ちない油分汚染:脱脂してもブレーキの効きが戻らず、滑るような感触がある。
- ローターの摩耗限界:厚みがメーカーの指定する限界値(MIN. TH.)を下回っている。
- ローターの深刻な歪みや傷:セルフでの修正が不可能なほどの大きな歪みや、爪が引っかかるほどの深い傷がある。
- 金属同士が擦れるような異音:「キー」という音ではなく、「ガー」「ゴー」といった低い、削れるような音がする場合、パッドの摩擦材が完全になくなり、金属の台座がローターを攻撃している可能性が非常に高いです。この状態は極めて危険であり、即座に使用を中止し、修理に出す必要があります。
これらの部品交換は、適切な工具と知識があれば自分で行うことも可能ですが、特に油圧ディスクブレーキの場合、作業中にエアが混入してしまうリスクなどもあります。自信がない場合は、迷わずプロに任せましょう。
何を試しても改善しない!ショップに相談すべき症状
これまで紹介した洗浄や調整、部品チェックなどを一通り試しても、なおブレーキ鳴きが解消されない場合は、より複雑な問題が潜んでいる可能性があります。
- あらゆる対策をしても音が消えない:洗浄、脱脂、パッド交換、ローター交換、キャリパー調整を全て行っても症状が改善しない場合、キャリパー本体のピストンの固着や、フレーム側のブレーキマウントの精度など、より専門的な診断が必要です。
- ブレーキレバーの感触がおかしい:レバーを握ったときに、スカスカする、またはゴリゴリとした感触がある場合(特に油圧式)、ブレーキフルードの劣化やエア噛み、オイル漏れなどが考えられます。これは「ブリーディング」という専門的な作業が必要になります。
- オイル漏れの形跡がある:ブレーキキャリパーやレバー周りからオイルが滲んでいるのを発見した場合、シール部品の劣化などが考えられます。放置するとブレーキが効かなくなるため、早急な修理が必要です。
- 自分で分解・組立をしたが元に戻せない、または不安:作業の途中でわからなくなってしまった場合は、無理に続けずに、その状態でショップに持ち込むのが賢明です。
これらの症状は、サイクリストの安全を直接脅かすものです。少しでも不安を感じたら、すぐに専門知識を持つショップのメカニックに相談してください。
自転車店での修理内容と費用の目安
自転車専門店に修理を依頼した場合、どのような作業が行われ、費用はどのくらいかかるのでしょうか。一般的な作業内容と費用の目安を以下に示します。
修理・作業内容 | 作業内容の概要 | 費用の目安(片側) |
ブレーキ調整 | キャリパーの位置調整、ワイヤーの張り調整など。 | 1,000円 ~ 2,000円程度 |
ブレーキパッド交換 | 古いパッドを取り外し、新しいパッドに交換する作業。 | 1,500円 ~ 3,000円程度(部品代別途) |
ディスクローター交換 | 古いローターを取り外し、新しいローターに交換する作業。 | 2,000円 ~ 4,000円程度(部品代別途) |
ブリーディング(エア抜き) | 油圧式ブレーキのフルードを交換し、内部のエアを抜く作業。 | 3,000円 ~ 5,000円程度(フルード代込み) |
ブレーキシステム全体の点検 | 音鳴りの原因究明など、総合的な診断。 | 診断料として1,000円~、または修理工賃に含む |
※上記はあくまで目安であり、店舗、地域、自転車の種類、ブレーキのモデルによって料金は変動します。
※部品代は、使用するパッドやローターのグレードによって大きく異なります。一般的なものであれば、パッドは2,000円~、ローターは3,000円~程度から見つかります。
ショップに持ち込む際は、まず「ブレーキからキーキー音がする」という症状を具体的に伝え、点検と見積もりを依頼しましょう。原因と必要な作業、そして総額の費用を確認した上で、正式に修理を依頼するのが安心です。
まとめ:ブレーキ音を解消して安全なサイクリングを楽しもう

自転車ライフナビ・イメージ
自転車のディスクブレーキから発生する「キーキー」という音は、多くのサイクリストが経験する悩ましい問題です。しかし、その原因は様々であり、単に不快なだけでなく、自転車の安全性能に関わる重要なサインでもあります。
音鳴りの多くは、ディスクローターやブレーキパッドに付着した汚れや油分が原因です。まずは、この記事で紹介した洗浄や脱脂といった基本的なメンテナンスから試してみてください。これだけで、驚くほど静かなブレーキを取り戻せることも少なくありません。
それでも改善しない場合は、パッドの摩耗やローターの歪みといった部品の状態をチェックし、必要に応じて「鳴き止め剤」の使用や部品交換を検討しましょう。ただし、鳴き止め剤の使用は、塗布する場所を絶対に間違えないよう細心の注意が必要です。
もし、ご自身での対処に限界を感じたり、ブレーキの効きに少しでも不安を覚えたりした場合は、決して無理をせず、信頼できる自転車専門店に相談してください。プロの目で的確に原因を診断し、適切な処置を施してもらうことが、何よりも安全につながります。
ブレーキは、あなたの命を守る最重要パーツです。日頃からその状態に気を配り、適切なメンテナンスを行うことで、不快な音から解放されるだけでなく、あらゆる状況で確実に停止できるという安心感を得ることができます。静かで快適なブレーキを手に入れて、これからも安全なサイクリングを心ゆくまで楽しんでください。