坂道でも楽にスイスイ進める電動自転車は、今や私たちの生活に欠かせない便利な乗り物です。
しかし、その手軽さゆえに、ついつい「もっと速く走れたら」と考えてしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。
インターネット上では、「電動自転車で時速40km出た」「リミッターを解除すれば60kmも可能」といった情報を見かけることがあります。
しかし、その行為が一体どのような結果を招くのか、ご存知でしょうか。
実は、電動自転車で時速40kmや60kmといった速度を出すことは、単に「速くて気持ちいい」という話では済みません。
そこには、法律違反という重大な問題と、あなた自身や周りの人の命を危険に晒す、計り知れないリスクが潜んでいます。
この記事では、電動自転車の速度に関する法的なルール、時速40kmや60kmで走行することの違法性と危険性、そして実際に科される厳しい罰則について、どこよりも詳しく、そして分かりやすく解説していきます。
「知らなかった」では済まされない、電動自転車の速度の真実。
安全で快適な自転車ライフを送るために、ぜひ最後までお読みください。
電動自転車で時速40kmや60km出すことの違法性

自転車ライフナビ・イメージ
電動自転車で時速40kmや60kmという、本来想定されていない速度で走行することは、日本の法律に照らし合わせて明確に「違法」となります。
なぜ違法なのか、そしてどのようなルールが存在するのかを正しく理解するためには、まず「電動アシスト自転車」と、それに似た乗り物である「モペット」や「フル電動自転車」との違いを知ることが不可欠です。
見た目が似ているからといって、同じルールが適用されるわけではありません。
ここでは、それぞれの車両の定義と、法律で定められた基準について、一つひとつ丁寧に解説していきます。
このセクションを読むことで、なぜ時速24kmを超えるアシストが許されていないのか、そして時速40kmや60kmで走る乗り物が「自転車」ではない理由が明確に理解できるでしょう。
モペットと電動自転車の違い
まず、多くの方が混同しがちな「モペット」と「電動アシスト自転車」の違いについて整理しましょう。
この二つは、ペダルが付いているという点では似ていますが、その動力の仕組みと法律上の扱いは全く異なります。
電動アシスト自転車は、あくまでも「自転車」の一種です。
その最大の特徴は、人がペダルを漕ぐ力をモーターが「補助(アシスト)」する仕組みであるという点です。
つまり、ペダルを漕がなければモーターは作動せず、自力で進むことはありません。
あくまで主体は「人力」であり、モーターは坂道や漕ぎ出しの際の負担を軽減するためのサポート役なのです。
一方、「モペット」や「フル電動自転車」と呼ばれる乗り物は、ペダルが付いていますが、ペダルを漕がなくてもスロットル(アクセル)を回すだけでモーターの力のみで進むことができます。
もちろん、ペダルを漕いで進むことも可能です。
この「自走機能」があるかないかが、両者を分ける決定的な違いです。
ペダルを漕がずに進めるということは、その動力源がモーター、つまり「原動機」であると見なされます。
そのため、フル電動自転車やモペットは、法律上「原動機付自転車(原付)」またはそれ以上の排気量クラスの「オートバイ」と同じ扱いに分類されるのです。
この違いを分かりやすく表にまとめました。
項目 | 電動アシスト自転車 | モペット(フル電動自転車) |
分類 | 自転車 | 原動機付自転車 または オートバイ |
動力の仕組み | 人が漕ぐ力をモーターが補助する | スロットル操作でモーターのみで走行可能 |
自走機能 | なし(ペダルを漕ぐ必要あり) | あり(ペダルを漕がずに走行可能) |
公道走行の条件 | 特になし(一般的な自転車と同じ) | 免許、ナンバープレート、自賠責保険、ヘルメット、保安部品が必須 |
アシスト上限 | 時速24kmでアシストがゼロになる | 法定速度内であれば制限なし |
このように、見た目は似ていても、その本質は全くの別物です。
「電動アシスト自転車」という名前で販売されていても、スロットルが付いていてペダルを漕がずに進む機能があれば、それは法律上「自転車」ではありません。
この根本的な違いを理解することが、速度の問題を考える上での第一歩となります。
法律で定められた電動アシスト自転車の基準
では、日本国内で「電動アシスト自転車」として公道を走るためには、どのような基準を満たす必要があるのでしょうか。
これは、道路交通法施行規則によって非常に厳格に定められています。
この基準を満たしていないものは、たとえ販売店で「電動アシスト自転車」として売られていたとしても、公道では「自転車」として認められません。
主な基準は以下の通りです。
- アシスト比率の制限
- アシスト速度範囲の制限
まず、「アシスト比率の制限」についてです。
これは、「人がペダルを漕ぐ力」に対して「モーターが補助する力」の割合を定めたものです。
法律では、このアシスト比率が最大で「1:2」までと決められています。
つまり、人が「1」の力でペダルを漕いだ時に、モーターは最大でその2倍の「2」の力までしか補助してはならない、ということです。
自分の力よりも大きな力でアシストすることは禁止されています。
次に、そしてこちらが特に重要な「アシスト速度範囲の制限」です。
モーターによるアシストが機能して良い速度の範囲にも、明確な上限が設けられています。
具体的には、以下の二段階の基準が定められています。
- 走行速度が時速10km未満の場合:アシスト比率は最大で1:2まで。
- 走行速度が時速10km以上、時速24km未満の場合:速度が上がるにつれてアシスト比率が徐々に低下する。
- 走行速度が時速24km以上の場合:モーターによるアシスト機能が完全に停止(ゼロになる)すること。
この中で最も重要なのが、3番目の「時速24kmでアシストがゼロになる」という点です。
つまり、日本の法律に適合した正規の電動アシスト自転車では、モーターの力を借りて時速24km以上の速度を出すことは絶対にできません。
もし時速24kmを超えて走っているとすれば、それは完全に乗り手の脚力によるものか、あるいは下り坂の勢いを利用している場合に限られます。
時速40kmや60kmといった速度でアシストが効いているとすれば、それは間違いなくこの国の基準を満たしていない違法な車両ということになります。
基準を超える時速20km以上の走行
前の項目で、電動アシスト自転車は時速24kmでアシストが完全に停止すると解説しました。
この基準について、もう少し詳しく見ていきましょう。
法律で定められた基準は、単に時速24kmで突然アシストが切れるという単純なものではありません。
アシスト力は、速度に応じて滑らかに変化するように設計されています。
最もアシストの恩恵を受けられるのは、漕ぎ出しや低速走行時です。
時速10kmに達するまでは、法律で認められた最大のアシスト比率(人力の最大2倍)を発揮することができます。
これにより、信号からの発進や急な坂道の登り始めが非常に楽になります。
そして、速度が時速10kmを超えると、アシスト比率は徐々に、そして段階的に低下していきます。
例えば、時速15kmの時にはアシスト比率が少し下がり、時速20kmではさらに下がる、といった具合です。
これは、高速域での過剰なアシストによる危険を防ぎ、あくまでも自転車としての安全な速度域を保つための仕組みです。
そして最終的に、時速24kmに到達した時点で、アシスト比率は完全にゼロになります。
つまり、時速20kmを超えたあたりからアシストはかなり弱くなり、時速24kmからはただの「少し重い自転車」になるのです。
この仕組みを理解すれば、「正規の電動アシスト自転車で時速40kmや60kmを出す」ということが、アシスト機能の観点から見て不可能であることがお分かりいただけるでしょう。
もしそのような速度が出ると謳っている製品があれば、それは日本の法律で定められた「電動アシスト自転車」の基準を逸脱した、全く別の乗り物ということになります。
フル電動自転車は免許不要?
「フル電動自転車なら、ペダルも付いているし自転車と同じだから免許は要らないのでは?」
これは、非常によくある、そして最も危険な誤解の一つです。
結論から申し上げますと、フル電動自転車(ペダルを漕がずに自走できるもの)の運転に、運転免許は絶対に必要です。
免許なしで公道を走行することは、明確な法律違反(無免許運転)となります。
前述の通り、ペダルを漕がなくてもスロットル操作だけで進むことができる乗り物は、その動力源が「原動機」と見なされるため、道路交通法上は「原動機付自転車(原付)」またはそれ以上のクラスの車両に該当します。
これは、見た目がどれだけ自転車に似ていようと、ペダルが付いていようと関係ありません。
「自走機能」がある時点で、それはもはや「自転車」のカテゴリーには含まれないのです。
したがって、フル電動自転車を公道で運転するためには、その車両のモーターの定格出力に応じた運転免許が必要となります。
モーターの定格出力 | 車両区分 | 必要な運転免許 |
0.6kW以下 | 原動機付自転車(第一種) | 原付免許、普通自動二輪免許、大型自動二輪免許、普通自動車免許など |
0.6kW超~1.0kW以下 | 原動機付自転車(第二種) | 小型限定普通自動二輪免許(AT限定も可)以上 |
1.0kW超 | 軽二輪自動車 または 自動二輪車 | 普通自動二輪免許(AT限定も可)以上 |
多くのフル電動自転車は、定格出力が0.6kW以下の「原付一種」に該当します。
この場合、最低でも原付免許が必要となり、普通自動車免許を持っていれば運転することが可能です。
「免許不要」という甘い言葉で販売されているケースが後を絶ちませんが、それは公道での使用を想定していないか、あるいは違法行為を助長する悪質な表示です。
その言葉を鵜呑みにして公道を走れば、摘発された際に「知らなかった」という言い訳は一切通用しません。
電動モペットは公道可?
フル電動自転車と同様に、「電動モペット」も公道を走行すること自体は可能です。
ただし、それには厳しい条件を全てクリアしなければなりません。
単に購入してすぐに乗り出せるわけでは決してありません。
電動モペットが公道を走行するために最低限必要な条件は、以下の通りです。
- 保安基準を満たすこと
- ナンバープレートを取得・表示すること
- 自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)に加入すること
- 運転免許を所持していること
- ヘルメットを着用すること
まず、「保安基準」とは、安全に道路を走行するために国が定めた車両の構造や装置に関する基準のことです。
原付バイクとして扱われる電動モペットには、以下の保安部品が正しく装備され、正常に作動することが義務付けられています。
- 前照灯(ヘッドライト)
- 尾灯(テールランプ)
- 制動灯(ブレーキランプ)
- 後写鏡(バックミラー)
- 警音器(クラクション)
- 方向指示器(ウインカー)
- 番号灯(ナンバープレートを照らすライト)
- 速度計(スピードメーター)
これらの装置が一つでも欠けていたり、故障していたりすると「整備不良」となり、公道を走行することはできません。
次に、お住まいの市区町村の役所で手続きを行い、「ナンバープレート」を取得し、車体の見やすい位置に表示する必要があります。
そして、万が一の事故に備え、「自賠責保険」への加入が法律で義務付けられています。
これらの条件を全て満たした上で、対応する運転免許を持ち、ヘルメットを正しく着用して初めて、電動モペットで公道を走ることが許可されるのです。
「公道可」と謳って販売されている製品でも、これらの保安部品が備わっていなかったり、購入者が自分でナンバー取得や保険加入の手続きをしなければならなかったりするケースがほとんどです。
その手間と責任を理解せずに購入すると、結果的に違法走行につながる危険性が非常に高いと言えます。
フル電動自転車で公道可能な条件
改めて、「フル電動自転車」が合法的に公道を走行するための条件を整理します。
これは、あなたが乗ろうとしている、あるいは既に所有しているフル電動自転車が、法律を守って走れる状態にあるかを確認するための重要なチェックリストです。
以下の全ての条件を満たしている必要があります。
1. 車両の条件(保安基準の充足)
フル電動自転車は、そのモーターの定格出力に応じて「原動機付自転車」または「自動二輪車」に分類されます。
それぞれの区分に応じた保安基準を満たさなければなりません。
【原付一種(定格出力0.6kW以下)の場合の主な保安部品】
- 前照灯(ヘッドライト): 夜間やトンネル内で前方を照らすライト。
- 尾灯(テールランプ): 夜間に後続車へ存在を知らせるライト。
- 制動灯(ブレーキランプ): ブレーキをかけた際に点灯し、後続車に減速を知らせるライト。
- 後写鏡(バックミラー): 後方の安全確認に必須。左右両方に必要です。
- 警音器(クラクション): 危険を知らせるために鳴らすブザー。
- 方向指示器(ウインカー): 右左折や車線変更の際に点滅させるライト。前後左右に必要です。
- 速度計(スピードメーター): 現在の速度を表示する装置。法定速度の遵守に不可欠です。
これらの部品が、単に付いているだけでなく、道路運送車両法で定められた色、明るさ、取り付け位置などの基準に適合している必要があります。
2. 登録と保険の条件
- ナンバープレートの取得と表示: 市区町村の役所で軽自動車税の申告を行い、ナンバープレート(標識)の交付を受け、車体後部の見やすい位置に確実に取り付けます。
- 自賠責保険への加入: 法律で加入が義務付けられている強制保険です。コンビニエンスストアや郵便局、保険代理店などで加入できます。加入するとステッカー(保険標章)が交付されるので、ナンバープレートに貼り付けます。
3. 運転者の条件
- 運転免許の所持: 車両の区分に応じた運転免許証を携帯している必要があります。原付一種であれば、原付免許や普通自動車免許などが必要です。
- ヘルメットの着用: 乗車用ヘルメットの着用が義務付けられています。あごひもを確実に締め、安全基準を満たしたものを正しくかぶりましょう。
これらの条件を一つでも怠ると、それは違法走行となり、厳しい罰則の対象となります。
フル電動自転車は「手軽なバイク」であり、「高性能な自転車」ではないという認識を強く持つことが重要です。
電動自転車で時速40km, 60km走行のリスクと罰則

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さて、ここまでは主に法律上の定義や走行するための条件について解説してきました。
時速40kmや60kmで走ることが可能な乗り物が、もはや「自転車」ではなく「原付バイク」や「オートバイ」と同じ扱いになることはご理解いただけたかと思います。
このセクションでは、さらに踏み込んで、そうした高速走行がもたらす具体的なリスクと、万が一法律に違反してしまった場合に科される厳しい罰則について詳しく見ていきます。
「ちょっとくらいなら大丈夫だろう」「バレなければ問題ない」といった安易な考えが、いかに危険で、取り返しのつかない事態を招く可能性があるのか。
実際の事例も交えながら、その深刻さを明らかにしていきます。
リミッター解除は違法改造
国内で正規に販売されている「電動アシスト自転車」には、必ず速度を制御するためのリミッターが搭載されています。
このリミッターが、時速24kmでアシストを停止させるという、法律で定められた安全基準を守るための重要な役割を担っています。
しかし、インターネットや一部の業者を通じて、このリミッターを意図的に解除したり、作動する速度の上限を引き上げたりする改造が行われることがあります。
このような行為は「違法改造」に他なりません。
リミッターを解除した瞬間、その車両はもはや「電動アシスト自転車」ではなくなります。
法律上は、モーターの力で時速24km以上走行可能な「原動機付自転車」へとその性質が変化するのです。
そうなると、これまで解説してきたように、ナンバープレートの取得、自賠責保険の加入、運転免許の所持、ヘルメットの着用といった、原付バイクに課される全ての義務が発生します。
これらの義務を果たさずに公道を走行すれば、無免許運転や無保険運行といった複数の法律違反を同時に犯すことになります。
また、そもそも電動アシスト自転車の車体は、時速24kmまでの走行を前提として設計されています。
ブレーキの性能、フレームの強度、タイヤのグリップ力など、全ての部品がその速度域での安全性しか担保していません。
そのような車体で時速40kmやそれ以上の速度を出すことは、例えるなら、軽自動車にスポーツカーのエンジンを積んで走るようなもので、極めて無謀で危険な行為です。
制動距離は大幅に伸び、急なハンドル操作で簡単にバランスを崩し、フレームが走行中の負荷に耐えきれず破損する可能性すらあります。
リミッター解除は、単に法律を破るだけでなく、自分自身と周囲の人々の安全を根底から脅かす、非常に悪質な行為であると認識してください。
フル電動自転車の時速40km走行は違反
では、保安基準を満たし、ナンバーや保険も完備した正規の「フル電動自転車」であれば、時速40kmで走行しても問題ないのでしょうか。
答えは「いいえ」です。
ほとんどの場合、それもまた法律違反となります。
現在、市場で「フル電動自転車」として販売されている製品の多くは、モーターの定格出力が0.6kW以下の「原動機付自転車第一種(原付一種)」に分類されます。
そして、道路交通法において、原付一種の法定速度は「時速30km」と定められています。
したがって、たとえフル電動自転車で全ての公道走行条件を満たしていたとしても、時速30kmを超えて走行した時点で「速度超過(スピード違反)」となるのです。
時速40kmで走行した場合、法定速度を10km超過していることになります。
これは原付バイクが時速40kmで走っているのと同じ違反行為であり、当然ながら警察の取り締まり対象となります。
標識で制限速度が指定されている道路では、その速度に従う必要がありますが、標識がない一般道における原付一種の上限は、あくまで時速30kmです。
見た目が自転車に近いからといって、このルールが免除されることは絶対にありません。
時速40kmという速度は、自転車にとっては非常に高速です。
歩行者や他の自転車との速度差は大きく、万が一接触すれば相手に深刻な怪我を負わせる可能性が格段に高まります。
フル電動自転車に乗る際は、自分が原付バイクを運転しているという自覚を持ち、法定速度を厳守することが強く求められます。
時速50km走行は原付バイクと同じ扱い
さらに速度を上げ、時速50kmで走行した場合はどうなるでしょうか。
これは、言うまでもなく極めて悪質で危険な速度超過違反です。
原付一種の法定速度である時速30kmを、20kmもオーバーしていることになります。
これは、原付バイクで一般道を時速50kmで走行するのと全く同じ違反であり、警察に検挙されれば厳しい処分が下されます。
具体的には、速度超過違反として違反点数が加算され、反則金を納付しなければなりません。
しかし、法的な罰則以上に深刻なのが、事故のリスクです。
時速50kmという速度は、自転車の華奢な構造では到底安全に制御できる領域ではありません。
- 制動距離の増大: ブレーキをかけてから完全に停止するまでの距離が著しく長くなります。前方の危険を察知しても、まず止まることはできません。
- 車体の不安定化: わずかな路面の凹凸や横風でもハンドルが取られ、簡単に転倒につながります。
- 衝突時の衝撃: 時速50kmでの衝突エネルギーは、低速時とは比較にならないほど甚大です。運転者自身が命を落とす危険はもちろん、衝突された歩行者や自転車の運転手にも致命傷を与えかねません。
そもそも、モーターの定格出力が0.6kWを超えるような高性能なフル電動自転車(原付二種や軽二輪に該当)でなければ、平地で時速50kmという速度を維持すること自体が困難です。
もしそのような速度が出る車両であれば、それはもはや原付一種の枠を超えた、より上位のオートバイとして扱われるべきものです。
その場合、必要な免許も小型限定普通二輪免許や普通二輪免許となり、車両登録や税金も変わってきます。
いずれにせよ、「見た目が自転車だから」という理由で、オートバイと同等の速度で公道を走行することが、いかに非常識で危険な行為であるかは明白です。
フル電動自転車で捕まった実際の事例
「バレないだろう」という考えは、残念ながら通用しません。
近年、違法な電動モペットやフル電動自転車の取り締まりは全国的に強化されており、検挙される事例が後を絶ちません。
実際に報道されている事例を見てみると、どのような行為が摘発につながるのかがよく分かります。
- 事例1:無免許・無保険での運転都内の路上で、ナンバープレートを付けていないフル電動自転車を運転していた男性が警察官に呼び止められました。男性は運転免許を持っておらず、自賠責保険にも未加入でした。結果として、無免許運転と無保険運行の疑いで検挙されました。警察官は「ペダルを漕がずに不自然な速度で走っていた」ことから不審に思ったと話しています。
- 事例2:ヘルメット未着用と信号無視大阪府内で、ヘルメットをかぶらずにフル電動自転車を運転し、さらに赤信号を無視したとして女性が摘発されました。車両にはウインカーやブレーキランプなどの保安部品も備わっていませんでした。警察の調べに対し、女性は「自転車だと思っていた」と供述したとのことです。
- 事例3:飲酒運転による事故地方都市で、フル電動自転車を飲酒後に運転していた男性が、カーブを曲がりきれずに転倒し、対向車と接触する事故を起こしました。男性は怪我を負い、呼気検査で基準値を超えるアルコールが検出されたため、酒気帯び運転の疑いで逮捕されました。フル電動自転車も法律上は車両であり、飲酒運転は極めて重い罪に問われます。
- 事例4:インターネットで購入し、違法と知らずに使用通信販売で「免許不要・公道走行可能」と謳われたフル電動自転車を購入した学生が、ナンバープレートを付けずに走行していたところを検挙されるケースも多発しています。購入者は違法であるとの認識が薄く、販売サイトの情報を鵜呑みにしてしまっていることが多いようです。
これらの事例から分かるように、警察は単に速度を見ているだけではありません。
ナンバープレートの有無、ヘルメットの着用、ペダルを漕がない不自然な挙動、不安定な走行など、様々な点から違法車両を見抜いています。
「みんなやっているから大丈夫」ということは決してありません。
「フル電動自転車はバレない」は危険な嘘
インターネットの掲示板やSNSでは、「フル電動自転車なんてバレない」「警察も自転車との区別がつかない」といった、無責任な情報が溢れています。
しかし、これは極めて危険な嘘であり、絶対に信じてはいけません。
前項の検挙事例からも分かるように、警察官はプロの目で道路交通を監視しており、違法な車両を見抜くポイントを熟知しています。
具体的に、どのような点が「バレる」きっかけになるのでしょうか。
- 不自然な挙動: 最も分かりやすいのが、ペダルを全く漕がずにスルスルと進む様子です。特に、信号からの発進時や上り坂で全く脚を動かさずに加速していく姿は、一目瞭然で不自然です。
- 異常な速度: 一般的な自転車や正規の電動アシスト自転車では到底出せない速度(時速30km以上)で走行していれば、当然ながら目立ちます。パトカーや白バイの速度計で容易に測定されます。
- 装備の不備: ナンバープレートが付いていない、ヘルメットをかぶっていない、夜間にライトを点灯していない、ミラーが付いていないなど、原付バイクとして当然備わっているべきものがない状態は、職務質問を受ける格好の理由となります。
- 走行音: 高出力のモーターは、特有の駆動音を発します。静かな住宅街などでは、その「ウィーン」という機械音が意外と響き、自転車らしくない音として認識されることがあります。
- 市民からの通報: 危険な走行を繰り返していると、近隣の住民や他のドライバーから「ナンバーのないバイクのようなものが猛スピードで走っている」といった内容で警察に通報されるケースも少なくありません。
近年、電動キックボードを含め、新しいモビリティに関する交通違反や事故が社会問題化していることから、警察はこれらの違法車両に対する取り締まりの目を光らせています。
「バレない」という考えは、希望的観測に過ぎず、摘発されるのは時間の問題だと考えるべきです。
一度検挙されれば、重い罰則が待っているだけでなく、事故を起こした際には人生を狂わせるほどの結果を招きかねません。
法律違反した場合の罰則
もし、違法な電動自転車の運転で検挙された場合、具体的にどのような罰則が科されるのでしょうか。
違反行為は一つだけでなく、複数の違反が重なって適用されることがほとんどです。
ここでは、主な違反項目とその罰則をまとめました。
これは決して他人事ではなく、違法な車両に乗ることで誰もが科される可能性のある、現実の処分です。
違反行為 | 根拠法令 | 罰則(懲役または罰金) | 行政処分(違反点数) |
無免許運転 | 道路交通法 | 3年以下の懲役 または 50万円以下の罰金 | 25点(免許取消し・欠格期間2年) |
自動車損害賠償責任保険(自賠責)未加入 | 自動車損害賠償保障法 | 1年以下の懲役 または 50万円以下の罰金 | 6点(免許停止) |
ナンバープレートの表示義務違反 | 道路運送車両法 | 50万円以下の罰金 | – |
整備不良(保安基準違反) | 道路交通法 | 3ヶ月以下の懲役 または 5万円以下の罰金 | 1点(制動装置等の場合2点) |
ヘルメット着用義務違反 | 道路交通法 | (罰金等はないが)口頭注意 | 1点 |
速度超過(30km/h以上) | 道路交通法 | 6ヶ月以下の懲役 または 10万円以下の罰金 | 12点~(免許停止・取消し) |
速度超過(20km/h以上30km/h未満) | 道路交通法 | (反則金制度あり) | 3点 |
酒気帯び運転(呼気中0.15mg/l以上) | 道路交通法 | 3年以下の懲役 または 50万円以下の罰金 | 13点(免許停止)または 25点(免許取消し) |
この表を見て分かる通り、罰則は非常に厳しいものです。
特に「無免許運転」は、たとえ事故を起こさなくても、運転していたという事実だけで重罪に問われます。
もし、リミッターを解除した電動アシスト自転車や、ナンバーのないフル電動自転車で事故を起こし、相手に怪我をさせてしまった場合、これらの刑事罰に加えて、莫大な金額の損害賠償を請求される民事上の責任も発生します。
自賠責保険に未加入であれば、その全てを自己負担で支払わなければなりません。
「少し速く走りたい」という軽い気持ちが、罰金、免許取消し、そして多額の借金という、人生を大きく狂わせる結果につながる可能性があるのです。
まとめ:電動自転車で時速40km, 60km走行は危険

自転車ライフナビ・イメージ
今回は、電動自転車で時速40kmや60kmといった速度で走行することの違法性と、それに伴うリスク、そして厳しい罰則について詳しく解説してきました。
記事の要点を改めて振り返ってみましょう。
まず、日本の法律では、モーターが人の力を補助する「電動アシスト自転車」は、時速24kmでアシスト機能が停止するように厳格に定められています。
この基準を超えるアシストが可能な車両や、ペダルを漕がずに自走できる「フル電動自転車(モペット)」は、法律上「自転車」ではなく「原動機付自転車」や「オートバイ」に分類されます。
これらの乗り物で公道を走るためには、運転免許の所持、ナンバープレートの取得、自賠責保険への加入、ヘルメットの着用、そしてウインカーやブレーキランプといった保安部品の装備が全て義務付けられています。
これらの条件を一つでも満たさずに走行することは、無免許運転をはじめとする重大な法律違反です。
また、たとえ全ての条件をクリアした正規のフル電動自転車(原付一種)であっても、法定速度は時速30kmです。
時速40kmや50kmで走行すれば、それは明確な速度超過違反となります。
「バレないだろう」という甘い考えは通用しません。
警察は不自然な挙動や速度、装備の不備などから違法車両を厳しく取り締まっています。
万が一検挙されれば、重い罰金や懲役、そして免許取消しといった厳しい処分が待っています。
何よりも忘れてはならないのは、法律違反である以前に、そのような高速走行は極めて危険な行為であるという事実です。
自転車の車体は、オートバイのような高速走行に耐えられるようには設計されていません。
ブレーキは効かず、車体は安定せず、事故が起きた際の被害は甚大なものになります。
あなた自身の命はもちろん、歩行者や他の車両を巻き込み、取り返しのつかない事態を引き起こす可能性が非常に高いのです。
電動自転車やそれに類する乗り物は、正しくルールを理解し、安全に利用すれば非常に便利な道具です。
しかし、一歩間違えれば、人を傷つける凶器にもなり得ます。
安易な速度の追求がもたらす代償は、あなたが想像するよりも遥かに大きいということを、どうか忘れないでください。
正しい知識を身につけ、法律とマナーを守って、安全で快適なモビリティライフを送りましょう。